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人々の願いを叶えるため、燃えさかる炎の前で修される護摩祈祷。その実像は秘密のベールに包まれていますが、実は真言密教の多くの流儀で、護摩祈祷のとき手にするのは密教法具の三鈷杵(さんこしょ)です。真言僧は、三鈷杵を手に護摩祈祷を修し、次々と願望を実現させているのです。
経典・蘇悉地経は密教法具の力として「是善成就者」「能成諸事」「悉能成就諸余事等」などと明記しています。
これを現代的な表現に直すと次のようになります。
☆ 仕事がうまく行く、成功する
☆ あらゆる願いを叶える
☆ 悪事災難から守り、困難を切り抜けさせる
弘法大師空海は806年(大同元年)10月22日付で朝廷に提出した「御請来目録」の中で、「限りない幸福と利益をもたらし、魔軍を催滅する」とそのパワーを絶賛しています。
さらに重要文化財・飛行三鈷杵写しであるこの三鈷杵には、空海を導いた下記の伝説が示すとおり、人生を良い方向に導く不思議な力があるとされます。人生はさまざまな選択と出会いで形作られますが、そこに神秘的要素があることは誰しも感じるところです。入試、ビジネス、縁談、就職などで正しい方向に導かれたいとき、「導きの三鈷杵」は心強い御守りとなることでしょう。
伝説によれば806年(大同元年)、空海が「密教を広めるのにふさわしい地に導かれますように」との願いを込めて飛行三鈷杵を投げると、東の空に飛んでいったといいます。そして816年(弘仁7年)、高野山の「三鈷の松」にかかっているのを発見し、この地に真言密教の道場を開いたといわれます。
「あらたに密教正嫡の阿闍梨の位についた空海が、正嫡の阿闍梨として持たねばならぬ付属品がある。日本の天皇家の例でいえば皇位継承のしるしである三種の神器のようなものであるといっていい。八種あった。この八種はインド僧金剛智が南インドから唐に渡ってくるとき請来したもので、それが相続の印可として金剛智から不空に伝えられ、不空から恵果に伝えられ、恵果から空海に伝えられた。恵果から空海に伝えられる場合、海を渡ってしまうため、唐にはもはや密教正嫡を証明するこの八種のしるしは存在しなくなる。このことを思うと、恵果が空海に相続させたという事柄そのものが尋常でないことがあらためて知らしめられる」
司馬遼太郎(1978)『空海の風景(下巻)』
空海は飛行三鈷杵を真然(804~891)に授け、その後中院別当、定観、雅真、仁海と伝わり御影堂に奉安されていました。1088年(寛治2年)白河上皇が持ち帰られ1世紀以上ご皇室が保有されていましたが、1253年(建長5年)高野山に戻っています。現在は高野山の至宝として厳重に保管されています。滅多に公開されることはありません。
弊社では原型師として名高い埒孝美師に依頼し、この伝説の三鈷杵を二寸半で格調高く再現いたしました。材質は「富貴を求めば、純ら銀で作れ」という蘇婆呼童子経の教えに従い純銀(SV925)を使用し、24金鍍金で仕上げました。805年(延暦24年)に空海が授かったときそのままのような美しい姿。「導きの三鈷杵」はたいせつな宝物になることでしょう。
川端康成も三鈷杵を所有し、文鎮として愛用していました。『川端康成全集』第三巻(昭和44年刊行)の口絵には愛用の三鈷杵の写真が使われており、川端自身が解説で、
「金剛杵はもとはインドの武器であるが、密教の法具となつた時は、象徴的な形を取つて、煩悩の賊を討ちほろぼす具とした。(略) 杵や鈴を身邊におき、机上に使つても、それらの法具の心はなんとなく通つて来る」
と書いています。あの美しい川端文学を導いたのは三鈷杵だったのかも知れません。
古美術に造詣の深かった川端は随想集「月下の門」の中で次のようにも述べています。
「古美術、あるひは骨董といふものは、最もいい時代の、最もいい作家の、最もいい作品を、これが私に與へられた教訓である。三流品や四流品でも『楽しめる』とよく言ふが、楽しめるでは趣味や道楽で、楽しめるにとどまるだらう。いいものに出会ふと自分の命を拾つた思ひがある」
「導きの三鈷杵」は生まれたての新品ですが、現代最高峰の原型師が心血注いで作り上げた逸品です。川端康成にプレゼントしたら、きっとにっこり微笑んで喜んでいただけたと思います。